なぜ「出っ張り」は割れにつながるのか—3つの物理

① てこの原理で応力が増幅

机や床に接触する最も高い点がカメラリングであるため、落下や置き方が斜めになっただけでもモーメント（曲げ）がレンズ縁に集中します。フラット背面に比べて、同じ落下でも面全体で受け止めにくい—これが最初の差です。

② 接触面積が小さい＝圧力が上がる

点や線で先に当たると局所圧力が上がり、ガラスやサファイアのエッジに微細な欠け（チッピング）が発生。ここが将来のクラック起点になります。

③ バンプ周りのフレーム剛性差

カメラユニットを囲うフレームや接着が薄いと、衝撃時にたわみが生まれ、レンズ—ベゼル—筐体の境界に応力集中。OIS（光学手ぶれ補正）の可動ユニットは微小隙間を要するため、周辺が硬くてもユニット側が追従できず、結局レンズに負荷が出やすくなります。

機種別で差が出る要因（フレーム・ベゼル・素材）

• ベゼル高さ…リングの立ち上がりが高いほど保護に見える一方、先に当たる確率も上がります。
• レンズ素材…サファイアは硬い反面靭性が低め。ガラスは傷に弱いが割れにくい方向もあり、設計次第。
• 粘弾性の中間層…レンズ—ベゼル間の充填剤や両面接着の厚みと硬さで衝撃吸収が変化。
• モジュールサイズ…大型センサー化で開口が広い→リング断面の余裕が減り、縁に力が載りやすい。
• フレーム材…アルミは座屈に強いがへこみやすい、ステンレスやTiは硬いが衝撃が逃げにくい等、トレードオフ。

日常で起きている“見えない衝撃”と習慣

机置きの微振動

テーブルにコトンと置くクセ、通知で揺れる振動、充電ケーブルの重み…同じ角に反復荷重が溜まります。ラバーのマットやケースのカメラ周囲バンパーで緩和できます。

ポケット圧・バッグ干渉

ジーンズ後ろポケットで座る／鞄の硬い金具と当たる—これらは面圧＋捩じれを誘発。前ポケット派や専用スリーブに変更するだけでリスクは目に見えて減ります。

レンズ面の砂粒

砂や金属粉は点接触の刃。掃除の拭き上げで円傷→微小クラックに。ブロア→マイクロファイバーの順が安全です。

ケース・フィルム選びのコツ（実務目線）

• カメラガードがレンズ面より0.6〜1.0mm高いものを基準に。
• リング一体型の段差が広い＝接触面積が増え、圧力を分散。
• 背面が硬＋柔の二層（PC＋TPU）だと衝撃の逃げ道が作れる。
• カメラ用個別レンズフィルムは、縁の面取りと接着全面性（隙間がない）を確認。
• 金属リングの意匠パーツは寒暖差での剥離に注意。貼り替えは40–50℃の温風で圧着。

レンズ割れの前兆とNG対処

• リング縁の白い欠け（チッピング）
• 夜景の点光源が放射状フレアに変化
• オートフォーカス時の異音、OIS動作でのカタつき

やってはいけない：瞬間接着剤の充填。ミラーやセンサーに揮発成分が析出し、曇り・AF不良の原因に。テープの仮止めはOKですが、通気穴を塞がないよう注意。

修理の目安とデータを守る段取り

レンズ表面のみの割れならレンズガラス単体交換で回復する例が多いですが、内部の可動ユニットに傷や粉塵が入っているとモジュール交換になります。撮影時の黒点・AF迷い・手ぶれ補正の異音があればモジュール側の可能性が高めです。

1. 割れに気づいたら撮影テスト（広角／望遠／動画）で症状を記録。
2. ガラス片の落下防止のため一時保護フィルムを貼付。
3. バックアップ（iCloud/Google/PC）を実行。
4. ご来店時はケース・リングなど周辺アクセも併せて持参（干渉評価のため）。

よくある質問（OIS・防水・保証）

Q. レンズだけ割れていても防水は効いていますか？

A. レンズ周囲の接着・パッキンは防水機能の一部です。欠けがあれば本体防水は担保できません。湿気侵入→曇り→センサー劣化の順で進行するため、早めの処置を推奨します。

Q. OIS搭載機で、落下後にカタカタ鳴ります。

A. 正常でも可動部の微音はありますが、直前より大きくなった／AFが遅いなら点検対象。モジュール交換が必要になることがあります。

Q. 貼るタイプのカメラ保護ガラスで画質は落ちますか？

A. 低品質品はフレア・収差の原因になります。ARコート・全面接着・精密面取りのある製品を選び、割れたら即交換しましょう。